- 大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療TAVIについて
- [TAVI]対象疾患
- [TAVI]利点
- [TAVI]アプローチ方法
- [TAVI]実績
- [TAVI]治療の流れ
- [TAVI]治療費
- [TAVI]治療体制
- [TAVI]治療設備
- 心臓血管内治療センター心構造疾患部門部長 あいさつ
TAVI(経カテーテル的大動脈弁植え込み術)とは、Transcatheter Aortic Valve Implantationの略で重症の大動脈弁狭窄症に対する治療法です。 胸を開かず、心臓を止めずにカテーテルを使用し心臓に人工弁を留置します。患者さんの身体への負担が少なく、入院期間も短いのが特徴です。 |
大動脈弁が硬くなるため弁の動きが悪くなり、心臓から全身へ送り出される血液量が少なくなったり心臓へ大きな負担がかかり、命に関わるさまざまな症状を引き起こす病気です。
心臓の出口にある大動脈弁が硬くなって、出口が狭くなる病気が「大動脈弁狭窄症」です。出口が狭くなると全身へ血流を送り出すことが困難となり、血圧低下や失神・狭心症などの症状が出現するようになります。
また、心臓へ圧負荷がかかるため心機能が低下して心不全をきたすようになり、不整脈によって突然死する場合もあります。
軽症、中等症のうちは薬で症状を緩和し経過をみる「保存的治療」を行いますが、重症の場合は、機能しなくなった大動脈弁を人工の弁に取り換える手術治療「根治的治療」が必要になります。
手術治療には、大きく分けて開胸手術とカテーテル治療の2つがあります。開胸手術は、胸の皮膚と骨を切開し一時的に心臓を止め人工心肺装置(心臓と肺の動きを代行する機器)を使った上で心臓を切開、大動脈弁を取り除き人工弁に取り換えます。開胸手術の中には、より小さな切開で手術を行うMICS(低侵襲心臓外科手術)という治療法もあります。
一方、カテーテル治療(TAVI)は、足の付け根の動脈または鎖骨下動脈、上行大動脈、心尖部から細い管を挿入し、機能しなくなった大動脈弁の内側に人工弁を置く手術法です。TAVIは胸を切開することなく、また心臓も止めることなく行うため開胸手術と比較し入院期間も大幅に短くなるため、高齢者や手術に耐えられない恐れがある患者さんも選択が可能です。
日本では2013年に保険適用の対象となり、当院でも2018年より治療を実施しております。
重症の大動脈弁狭窄症の患者さんのうち以下に該当する方にとって有効な治療方法です。
- ご高齢の患者さん(80歳以上が目安)
- 過去に開胸手術の治療歴がある方
- 胸部の放射線治療を受けたことがある方
- 頸動脈狭窄を合併している方
- 肺気腫など呼吸器疾患を合併している方
- 肝硬変など肝疾患を合併している方
- 悪性腫瘍を合併している方
※上記条件に該当していても、TAVI治療の適応とならない場合がございます。
ご高齢の方や既に疾患があり、手術が難しい患者さんへ新しい治療を選べるようになりました。 |
開胸することなく、また、心臓を止めることなく、カテーテルを使って心臓に人工弁を留置するため、患者さんの身体への負担が少なくなります。 |
従来の手術と比べると手術時間や入院期間が短いため、患者さんは比較的早く社会復帰ができます。 |
TAVIには複数のアプローチがあります。カテーテル(細い管)を太ももの付け根の動脈から挿入する「①経大腿(TF)アプローチ」が基本です。経大腿アプローチが困難な場合、胸の一部を切開し、心臓の先端から挿入する「②経心尖(TA)アプローチ」、心臓のすぐ上の血管から挿入する「③経大動脈(TAo)アプローチ」、肩の動脈から挿入する「④鎖骨下動脈(TSc)アプローチ」があります。
当院では患者さんの血管の状態に合わせて最適なアプローチ方法を選択します。
これらのアプローチの詳細については、下記の動画をご覧ください。
<エドワーズ社提供>
<エドワーズ社提供>
<エドワーズ社提供>
大動脈弁膜症に対する弁置換術では生体弁も使用されますが、生体弁の耐久性は10~15年と言われています。生体弁が劣化すると弁の開閉が正常に機能しなくなり、胸痛や息切れ、心不全の増悪や意識消失発作などが生じて、再び弁置換術が必要となります。弁置換術後の患者さんの長期生存率が改善し、術後の生存期間が長くなったことから生体弁の機能不全という問題が生じてきたのです。
このような生体弁の機能不全に対しては、全身麻酔下に人工心肺装置を用いた再開胸手術を行い、新しい生体弁に取り替えるしか選択肢がありませんでした。一方、海外では以前から機能不全となった生体弁に対しTAVIが行われてきましたが、2018年から日本でもTAVIによる治療が保険適用となりました。
従来行われているTAVIと同様の手順となり、心臓を止めず、局所麻酔下でカテーテルを用いて既存の生体弁(機能不全を起こした生体弁)の内側に新しい生体弁を留め置く治療(TAV in SAV)が可能となりました。開胸手術よりも侵襲は少ない治療です。
当院は機能不全をきたした生体弁に対してもTAVIを実施できる施設ですので、再度の開胸手術が困難な患者さんにも治療を行うことができます。
2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 国内実績 2013-2018年 |
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TAVI | 4件 | 21件 | 16件 | 26件 | 31件 | 24件 | 17,360件 |
2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 日本全体の成績 (2013年~2018年)※ |
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全死亡 | 0件 | 0件 | 0件 | 1件 [非心臓死(消化管出血)1件] |
0件 | 212件(1.4%) |
緊急開胸 | 0件 | 0件 | 0件 | 0件 | 0件 | - |
ペースメーカー植込み | 1件 | 0件 | 1件 | 3件 | 2件 | 752件(5.0%) |
術後心不全 | 1件 | 1件 | 0件 | 0件 | 0件 | 93件(0.6%) |
弁輪破裂 | 0件 | 1件 | 0件 | 0件 | 0件 | 73件(0.5%) |
血管関連合併症 | 0件 | 1件 | 1件 | 0件 | 2件 | 160件(1.1%) |
※日本経カテーテル心臓弁治療学会資料より
これまでの病状および現在の症状などを伺い、外来で心電図、胸部レントゲン写真、採血、心臓超音波検査などスクリーニング検査を行います。
スクリーニング検査の結果を踏まえTAVI治療を含めた治療法検討のために必要な検査を行うため2泊3日~1週間以内の検査入院を実施します。
基本的な検査内容は血液検査、心電図、胸部レントゲン写真、心臓CT検査、経食道心臓超音波検査などの検査を行います。
検査完了後、担当医より検査結果について説明を行います。
(治療に対するご本人・ご家族のご希望や不安など、ゆっくりとお話を伺います)
検査入院で施行した各種検査の結果を踏まえて、最適な治療方針の決定をハートチームで話し合います。循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医、看護師、臨床検査技師、臨床工学技士など治療に携わるスタッフ(ハートチームメンバー)がそれぞれの立場から治療方法を検討します。
ご本人の病状、ご希望を踏まえてTAVI、外科的手術、保存的加療(薬物治療)のいずれがより良いか検討し、退院時または外来再診時に説明させていただきます。
TAVI治療の数日前に入院となります。当日はハイブリット手術室へ入室して頂き、全身麻酔もしくは局所麻酔下でのTAVIを行います。ハートチームメンバーが万全の体制で治療に臨みます。手術翌日には一般病棟に戻り、すみやかに理学療法士を中心とした心臓リハビリテーションが始まります。また、入院中は看護師が親身になってサポートさせて頂きます。
退院に向けて管理栄養士による具体的な献立表を用いた栄養指導、理学療法士による自宅でも継続できるリハビリプログラム指導、薬剤師によるお薬の飲み方についての指導など安心して日常生活に戻れるように各部署がチームとなって支援致します。
退院後は概ね1か月後、3か月後、6か月後、1年後(1年後以降は年に一度)にお身体の状態を確認致します。遠方の患者さんの場合はご自宅近くのかかりつけ医の先生とも連携を取りますのでご安心下さい。
主治医と相談のうえ、退院後も継続して外来心臓リハビリテーションも行っております。当院では退院後のこともかかりつけ医としてしっかりと対応をしたいと考えておりますので気になることは何でもご相談下さい。
TAVIの治療には健康保険、高額療養費制度が適用になります。
負担割合 | 概算治療費(月額) | 対象要件など |
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1割 | およそ5.7万円 | 75歳以上の方で健康保険を使用される場合 |
2割 | およそ5.7万円 | 70歳以上の方で健康保険を使用される場合 |
3割 | およそ180万円 (高額療養費制度をご利用の場合は所得額によって異なり、およそ3.5万円~30万となります) |
70歳未満の方で健康保険を使用される場合 |
※食事代、個室代は別途必要になります。
※各種公費保険により異なる場合があります。
※高額療養制度についてご質問がある場合は医療相談室までお気軽にご相談ください。
TAVI治療は、当院ハートチームで治療にあたります。ハートチームは、循環器内科・心臓血管外科・麻酔科・看護部・臨床工学科・診療放射線科・臨床検査科・リハビリテーション科・ハートチームコーディネーターと診療科の垣根を超えた専門チームで構成されています。
TAVIに限らず、様々な循環器疾患に対して定期的に症例検討会を行っており、豊富な専門知識や経験をもった職員が心臓および全身状態の評価を行い、患者さんにとって最適な治療法を検討しています。
TAVIでの治療は、術前の各種検査や術後の支援が重要となります。チーム全体で一貫して担当させていただき、患者さんの症状や治療経過を把握し、治療後までの支援いたします。
ハイブリッド手術装置Discovery IGS730(GE社製)を設置したハイブリッド手術室
ハイブリッド手術室とは、手術台と心・脳血管X線撮影装置を組み合わせた治療室のことで、手術室と同等の空気清浄度の環境下でカテーテルによる血管内治療が可能です。 この組み合わせにより、最新の医療技術への対応が可能となりました。すなわち、外科的に最小限の皮膚切開を加えカテーテル治療を行うことができるようになったのです。 |
心構造疾患(SHD:Structural Heart Disease)とは、弁膜症、心筋症、その他先天性の心臓病など、心臓の構造異常が原因の病気のことをいいます。 日本は世界でも最も高齢化が進んでいる国の一つとなっています。高齢化とともに、心不全を生じる患者さんの増加が問題とされています。心不全は様々な原因により生じますが、弁膜症を原因とする割合が増加しています。薬物治療のみでは心不全のコントロールが難しい病気があり、中には手術が必要となることがあります。 心臓の手術となると体への負担や併存する病気への影響等から手術のリスクが高くなる場合があります。そのような場合に負担が軽減される治療としてカテーテル治療が検討されます。 昨今の医療における進歩は各分野において目を見張るものがあります。循環器疾患領域においても同様で、日本でも2013年より大動脈弁狭窄症に対してカテーテルを用いた人工弁留置術(TAVI)が導入され、従来の手術よりも負担が少なく治療が行えるようになりました。当院でも2018年より導入し、患者さんにとって治療法の選択肢が増え、今まで困難とされてきた患者さんに手術が可能となってきました。 当院では、治療方針について患者さんのニーズを含めて内科・外科に関わらずチームとして検討しています。当院ハートチームが重要視しているのは、患者さんとご家族にとっての幸せであり、チーム全体が患者さんにより良い医療を提供すべく努めています。 心臓血管内治療センター 心構造疾患部門 部長 不整脈部門 部長 不整脈部門デバイス科 科長 古堅 真 |