- 僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療について
- 対象疾患について
- MitraClipを用いたカテーテル治療のアプローチ方法
- 治療費について
- 治療体制について
- 心臓血管内治療センター心構造疾患部門部長 あいさつ
経皮的僧帽弁クリップ術とは重症な僧帽弁閉鎖不全症に対する治療法です。 MitraClipという新しいカテーテルを使用し心臓にクリップで僧帽弁を挟み込み留置します。 これまで僧帽弁閉鎖不全症は外科手術を必要としていました。MitraClipを用いたカテーテル治療は胸を開かず、心臓を止めないため患者さんの身体への負担が少ないため、これまで外科手術を受けれなかった患者さんに対する新しい治療の選択肢となりました。 |
心臓の僧帽弁が完全に閉じなくなり、心臓の血流が逆流してしまう病気です。
心臓には4つの弁がありますが(左側:僧帽弁大動脈弁、右側:三尖弁肺動脈弁)、そのなかで「僧帽弁」は左心房と左心室の間にあり、左心室から全身に送り出される血液が、左心房に逆流しないように心臓の動きに合わせて開閉しています。
僧帽弁閉鎖不全症とは、その僧帽弁がうまく閉じなくなり、左心室が収縮した際に血液が左心室から左心房に逆流してしまう進行性の弁膜症の一種です。
日本では75歳以上だと10人に1人が罹患していると言われる高齢者に多い疾患です。軽症であれば自覚症状はありませんが、悪化すると心不全等を引き起こし、命に関わる危険性もあります。
僧帽弁閉鎖不全症には以下の2種類があります。
僧帽弁の左心室側には、僧帽弁の弁尖と乳頭筋を結んでいる「腱索(ケンサク)」が、何らかの原因で切れたり、延長することで、弁尖の接合部分(前尖・後尖)に隙間ができ、血液が逆流してしまいます。
何らかの原因によって心臓が拡大し、僧帽弁の弁輪が大きくなったり、弁尖(前尖・後尖)が引っ張られる事で接合不全が生じ、血液が逆流してしまいます。
軽症、中等症のうちは薬で症状を緩和し経過をみる「保存的治療」を行いますが、重症の場合は、僧帽弁逆流を減少させる目的で手術治療「根治的治療」が必要になります。
手術治療には、大きく分けて開胸手術とカテーテル治療の2つがあります。
開胸手術は、胸の皮膚と骨を切開し一時的に心臓を止め人工心肺装置(心臓と肺の動きを代行する機器)を使った上で心臓を切開します。自分の僧帽弁を出来るだけ残す僧帽弁形成術と完全に人工の弁に置き換えてしまう僧帽弁置換術があります。開胸手術の中には、より小さな切開で手術を行うMICS(低侵襲心臓外科手術)という治療法もあります。手術治療を受けることができる患者さんは、手術治療が第一選択となります。
一方、MitraClipを用いたカテーテル治療は、足の付け根の静脈から細い管を挿入し、接合不全となった僧帽弁をクリップで挟み込み、留置する手術法です。
胸を切開することなく、また心臓も止めることなく行うため開胸手術と比較し入院期間も大幅に短くなるため、高齢者で手術に耐えられない患者さんが選択されます。
日本では2018年に保険適用の対象となり、当院でも2022年7月より治療を実施しております。
これまで日本全国で5000名(アボットメディカルジャパン合同会社発表、2022年7月現在)以上の患者さんが治療を受けております。
僧帽弁閉鎖不全症の治療には外科手術(僧帽弁形成術(MVP)、僧帽弁置換術(MVR))が効果的な治療とされています。
外科手術は胸を開け、心臓を止めて人工心肺装置を用いた治療が必要となるため、開胸手術に耐えられない患者さんはこれまで薬などで保存的治療を行うしかありませんでした。
一方、MitraClipを用いたカテーテル治療は上記のように僧帽弁閉鎖不全症で心臓外科手術が困難と判断された場合には適用となります。当院ではハートチームが患者さんにとって最適な治療方法を検討しております。
1.全身麻酔下で足の付け根を1センチ程度切開し、静脈から細い管(カテーテル)を挿入して左心房まで進めます。 |
2.カテーテルを通じてMitraClipを僧帽弁に差し込みます。 |
3.クリップを僧帽弁逆流部位まで操作し、僧帽弁の弁尖をクリップ内に挟み込みます。僧帽弁逆流が減少していることを確認後、クリップを留置します。逆流が想定していたものより多く残っている場合にはクリップの位置を修正したり、追加のクリップを留置することがあります。 |
僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療には健康保険、高額療養費制度が適用されます。
負担割合 | 概算治療費(月額) | 対象要件など |
---|---|---|
1割 | およそ5.7万円 | 75歳以上の方で健康保険を使用される場合 |
2割 | およそ5.7万円 | 70歳以上の方で健康保険を使用される場合 |
3割 | およそ40万円 (高額療養費制度をご利用の場合は所得額によって異なり、およそ3.5万円~30万となります) |
70歳未満の方で健康保険を使用される場合 |
※食事代、個室代は別途必要になります。
※各種公費保険により異なる場合があります。
※高額療養制度についてご質問がある場合は医療相談室までお気軽にご相談ください。
MitraClip治療は、当院ハートチームで治療にあたります。ハートチームは、循環器内科・心臓血管外科・麻酔科・看護部・臨床工学科・診療放射線科・臨床検査科・リハビリテーション科・ハートチームコーディネーターと診療科の垣根を超えた専門チームで構成されています。
MitraClipに限らず、様々な循環器疾患に対して定期的に症例検討会を行っており、豊富な専門知識や経験をもった職員が心臓および全身状態の評価を行い、患者さんにとって最適な治療法を検討しています。
MitraClipでの治療は、術前の各種検査や術後の支援が重要となります。チーム全体で一貫して担当させていただき、患者さんの症状や治療経過を把握し、治療後までの支援をいたします。
心構造疾患(SHD:Structural Heart Disease)とは、弁膜症、心筋症、その他先天性の心臓病など、心臓の構造異常が原因の病気のことをいいます。 心不全の治療において薬物治療は基本的な治療として非常に重要な位置を占めていますが、患者さんの状態によっては非薬物治療(手術)が必要な患者さんもいます。MitraClipを用いたカテーテル治療は非薬物治療の選択肢の一つです。 僧帽弁逆流症に対する新しいカテーテル治療であり、これまで外科手術のリスクが高く薬物治療の選択肢しかなかった患者さんにおける重要な治療オプションとなっています。日本国内では2018年から行うことが可能となっており、当院でも施行可能な治療法です。 当院では外科と内科が密に連携・協力し合い、高度な技術を要求される外科手術や最先端のカテーテル治療を提供し続けられるよう常に研鑽しています。 心臓血管内治療センター 心構造疾患部門 部長 不整脈部門 部長 不整脈部門デバイス科 科長 古堅 真 |